2013年9月26日木曜日

ローカライザー休止中の富山空港 - VOR-Aアプローチを行うボーイング787を撮ってみた

10月16日のANA885/887便がRNAV(GNSS) Approachを実施しました(10/16)(ブログレポート)
ANAのRNP-APCH取得機体に関する記載を加筆しました(10/10)
RNP-APCHに関する記載を加筆しました(9/28)

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前回、8月22日のブログ記事


でご紹介したとおり、9月19日より富山空港のローカライザー休止期間を迎えました。
約15年に1度の機器更新が行われています。

前回記事もご一読頂ければ幸いです)

富山空港 ローカライザー
停波中の富山空港ローカライザー 「富山ILS(ITO)」
この日はCABさんが何やらお仕事中

一部の航空(航法)ファンは大いに盛り上がっているものの、突然の飛行コース変更で「VOR-Aアプローチ」の飛行コース付近住民から問い合わせが相次いでいる模様。
それを受けて、県も富山きときと空港ホームページにお知らせを出し、また地元紙の北日本新聞やテレビのニュースも取り上げるなどちょっとした騒ぎになっています…。



(以下、個人的・趣味的研究扱いということで…)


休止期間中の各航空会社のアプローチ方法については、概ね前回のブログで予想していた感じとなりました。

国内航空会社(ANA・エアドゥ)
  • 「VOR-Aアプローチ」を実施
  • 天気がよければ途中でIFRをキャンセルしてVFRで進入・着陸
  • 「RNAV(GNSS)アプローチ」は機体の許可取得を行っていないため実施できず
    富山空港はノンレーダー空港のため「RNP0.3 required」の条件付き
    9月6日現在、国内定期航空会社でRNP-APCHを取得してるのは新中央航空とJACの機体のみ

海外航空会社(中華航空・上海航空・アシアナ航空)
  • 「えっ、ローカライザー使えないの?」(こういうのも予想はしてましたが、ううむ…)
  • 休止前と同様、各社とも「RNAV(GNSS)アプローチ」を実施可能(VOR-Aを実施することもあり)
※運航再開した中国南方航空は25日にVOR-Aを実施。RNAV(GNSS)アプローチの実施可否については今のところ不明。


やはり富山空港に就航する国内航空会社(ANA・エアドゥ)は「RNAV(GNSS)アプローチ(※RNP0.3 required)を実施できないようです。
すべての航空機・航空会社がこのRNAVアプローチを実行できれば、こんなクレームが来ることはなかったのでしょうが…

富山空港 富山VOR/DME ボルデメ
VOR-Aアプローチの要となる富山VOR/DME(TOE) 通称「ボルデメ」


それでは、実際のVOR-Aアプローチ飛行経路はどんな感じなのかを見てみましょう。
今回、ボーイング787によるVOR-Aアプローチ動画を撮影しましたのでこちらをどうぞ
(動画にはアノテーションを付加してあります。※タブレット・スマートフォン等では表示されません)







2013.9.22 富山空港 TOYAMA Airport, Toyama, JAPAN
- Flight Data -
Date: Sep 22, 2013
Airline: All Nippon Airways 全日空 全日本空輸 (ANA/NH)
Aircraft: Boeing 787-8 Dreamliner
Registration No.: JA807A
Flight No.: NH885
Origin: Tokyo/Haneda (RJTT/HND)
Destination: Toyama (RJNT/TOY)
Runway: 20
Landing: 0549Z
METAR: RJNT 220500Z 02008KT 330V050 9999 SCT030 BKN/// 26/18 Q1017


いつもと違う点にお気づきでしょうか?

それでは動画を写真Flightradar24の航跡で振り返りましょう。

ANA885便がRAICHOアライバルを使用して富山空港上空にやってきました。
富山VOR/DME(以下、TOE)での高度は6000ft(以上)となりますが、思った以上に高さがあります。
注意深く北の空を眺めていないと突然頭上に現れますよ。

RAICHO ARRIVALを通ってTOE上空までやってきたANA885便
(未収録映像より)

このときのFlightradar24による航跡
FR24に表示される高度はQNE値なので、低高度では機上とズレがある

富山ITO休止期間中に代替設定されたRAICHO/HIMI ARRIVAL
どちらも終了点がTOE(6000feet at or above)まで延伸されている
(従来からのTOYAMA/OHANA ARRIVALは終了点がMEDIC(3000feet at or above))


RAICHOアライバルでTOEに到着後、再びTOEからVOR-Aを開始するため、1度ホールドします。


ホールドして再びTOEへ
このときは旧山田村周辺まで行っていた
高度は引き続き6000feet

再びTOE上空を通過するところから動画を収録。この時点がVOR-Aの開始となる「Leaving High-Station」となり、降下を開始します。

動画はここから収録
ホールドして再びTOEに戻ってきた885便
TOEを6000feet以上で通過してVOR-Aアプローチ開始

VOR-Aアプローチの開始点もTOE(6000feet at or above)
MINIMAにも注目。MDA/VISの値が、LOC Zよりも悪い(787/767はCAT D)


ここで885便から「コンタクトアプローチ RWY20 ストレートイン」が要求され、許可されました。

コンタクトアプローチとは、進入方式の全部または一部を目視によって省略が出来る方式。(参考:AIM-JAPAN)
これにより富山湾上で行われるベースターン後の最終進入経路においてストレートインに近い進入経路を取ることが出来ます。
ただしこのコンタクトアプローチには雲の高さと視程の条件がありますので、すべての場合において許可されるわけではありません。


Completing Base Turn
TOEから11マイル以内でベースターンを開始、再び富山空港へ

そしてここからがVOR-Aアプローチ見どころ!

航空機は富山湾から市街地上空を飛行
機体の左側面(ポートサイド)が見えている
ローカライザーを使った着陸では通らない経路

神通川と常願寺川の中間から進入
富山市街地の中心部を飛行することになる

滑走路方向へ右旋回しショートファイナル
この瞬間がカッコイイですね

北陸自動車道を越えて・・・

滑走路20に着陸
右側に見えるのはTOE

当該便の飛行経路の全体を見る

休止中のローカライザー横を通過する787
最新鋭機でも、ローカライザーがないと面倒な飛行経路に…


ローカライザーを使用した「TOYAMAアライバル」+「LOC Z RWY 20」の航跡と比べると、違いは歴然ですね。

ローカライザーを使用した一般的な航跡(9/18 NH885)
「TOYAMA ARRIVAL」+「LOC Z RWY 20」

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続いて、Flightradar24から興味深い航跡をピックアップしてみました。

① 9月19日 ANA885便


天候がよかったため、富山湾上でIFRをキャンセルしVFRで飛行した例。

快晴により見通しがよく、遠方から滑走路が見えている場合などはIFRをキャンセルして着陸が行われます。この場合VOR-Aは行われず、概ね最短経路での着陸となります。
(上記は滑走路02への着陸なので、海上から既にレフトベースを目指して飛行しています)

また、スコークコード1200に設定されています(赤矢印)。
これはVFRにて飛行している状態を表しています。


② 9月22日 CAL170便



中華航空機は母国でのRNP-APCH認証を取得していると思われますので、RNAVアプローチを使って着陸しました。
RAICHOアライバルではなく「TOYAMAアライバル」を使用してMEDIC(航空機アイコン表示位置)に3000ftで到達していますので、このままRNAVアプローチを開始します。

これはローカライザーを使用した従来の飛行コース「LOC Z RWY 20」と同じです。

TOYAMA ARRIVAL:Cross MEDIC at or above 3000FT
RAICHO ARRIVAL:Cross TOE VOR/DME at or above 6000FT

RNAV(GNSS)チャート
MINIMAはLOC Zと同等のDA(MDA)/CMVとなっている
注目点は「RNP0.3 required」


③ 9月23日 ANA889便


RAICHOアライバルを使用せずにVOR-Aを始めた例。

VOR-A開始時のTOE通過高度は約13000feetでした。若干ベースターン地点が沖合に伸びています。
エンルートでの最低飛行高度や高度処理の問題もあり、すべての到着機がこの経路で降りてくるわけではありません。


④ 9月24日 ANA881便



③同様、STARを使用せずにVOR-Aを始めた例。
最初のTOE到着時は16000feet。その後TOE上空で2回ホールドして高度処理し、約6000feetでVOR-Aを開始。最後は滑走路02へ周回を行い着陸しました。


⑤ 9月24日 ANA891便




RAICHOアライバルで富山へ飛行しVOR-Aを開始する場合、動画で紹介したケースのようにTOE上空を都合2回通過しなければなりません(RAICHOアライバルの終了点とVOR-Aの開始点)。終了点と開始点を通過する際のベクトルが異なるので、180度転換しなければならないためです。
(OYABEアライバルからの到着時は角度的にも1度で済ませられることが多い)

そのため、「Leaving High-Station」はVOR-Aを開始した時点となる2回目のTOE通過で報告するのが正しいものと思われますが、この便はRAICHOアライバル終了時点でのTOEで報告し、VOR-Aが開始されたものとしてそのままアウトバウンドしてベースターンに向かってしまいました。

この機以外にも25日の中国南方航空、ANA889便がほぼ同様の飛行コースをとっています。

VOR-AアプローチはTOEから出発してラジアル019で飛行するのが正しいのですが、これではTOEからのラジアルを利用した着陸とは言えません。

また管制官と機上の意思疎通が出来ていたのか疑問の残るフライトです…


⑥ 10月9日 ANA891便



2度のゴーアラウンド(着陸やりなおし)ののち、3回目で着陸できた例。

この日は視程については問題ないものの低い雲が散在、雲底高度(シーリング)が低く滑走路が視認できなかったようです。
当時のMETARを見ますと、最低降下高度以下にFEW005がありました。

VOR-Aアプローチでは、最低降下高度が630feetとなっていて、LOC ZやRNAV Approach(DA)の470feetよりも高くなっています(CAT D)。

RJNT 091200Z VRB02KT 9999 -SHRA FEW005 SCT008 BKN020 22/20 Q1015
RJNT 091219Z 29004KT 9999 -SHRA FEW004 BKN008 BKN015 22/20 Q1015 RMK 1ST004 5CU008 6CU015 A2999

最初にTOEをスタート(VOR-Aアプローチを開始)してから着陸まで、およそ40分近く富山上空で飛行していたことになります。

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ここまで、停波から約1週間の動きをまとめてみました。

VOR-Aアプローチは我々航空(航法)ファンにとって非常に興味深い飛行ですが、運航する側からすると大変。飛行時間は10分以上長くなりますので、当然燃料も多く必要です。

今のところ秋晴れの好天が続いていますがこれが悪天候となると、今までと同様なコース・着陸条件となるRNAVアプローチを使用する外国航空機と比べ、VOR-Aを使わざるを得ない国内航空会社は着陸時の視程・最低降下高度の各条件が悪くなります。

  • 国際線→通常運航(RNAVアプローチを使用・着陸条件に変化なし)
  • 国内線→悪天候のため欠航(VOR-Aアプローチしか使えない・着陸条件が厳しくなる)

という事にならないとよいのですが…。


何故に国内航空会社がRNP-APCH許可を取らないのか、それとも別の条件等を満たせないために「取れない」のか、この辺もいろいろ調べています。
特に787737NGなど、せっかくの最新鋭機なのにRNAVを行わないなんて勿体ないですよね。

一番理解できないのは、「RNP AR APCH」というもっと複雑なアプローチ方式を実施できる航空機(ANAが受領している787と737NGシリーズ全機)ですら「RNP-APCH」について運航の許可を取ってない点です。

この件はもう少し注目していきたいと思います。


(9月29日追記)
この件について先日の羽田空港空の日において、チェックスター付近にいらした詳しい方(お察しください)に確認したところ、日本におけるRNP-APCH認証にはSBAS(MSAS)の搭載が必要との事でした。
また、多くの国内航空会社の機体が資格取得していないのは、各就航空港の平均的な気象条件やそれに対する各アプローチの視程条件などを考慮、さらに認定取得にかかる機体の証明や乗員訓練のコストを計算、その結果「RNAV(GNSS)アプローチ※RNP0.3 required」に必要な運航資格を取得しなくてもそれほど影響ないとみている可能性もあるのではないか、との事でした。
(10月10日追記)
10月9日に更新されたJASMAの資料を見ると、ANAが保有する多くの機種・機体で
「RNP-APCH Approved」となりました。
(10月16日追記)
10月16日のANA885/887便がRNAV(GNSS) Approachを実施しました。

以上、VOR-Aアプローチ動画とローカライザー停波後の運用レポートでした。
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